フタル酸エステル類分析

フタル酸エステル類分析

1.フタル酸エステル類とは(種類、生産量)

アルコールと無⽔フタル酸から合成される化合物の総称で、常温では無⾊透明の液体です。原料に使うアルコールの違いによって多様な種類(数⼗種類程)があり、耐熱性・耐寒性や相溶性などの性能が異なります。代表的なものがDEHP=フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(別称:DOP)で、全フタル酸エステル⽣産量の約5割を占めます。主な⽤途は、塩化ビニル樹脂(塩ビ)を中⼼としたプラスチックに柔軟性を与える可塑剤※として、世界各国で広く使われております。日本では、全可塑剤⽣産量の8割以上を占め、2017年度では年間約23万トンが⽣産されています。

※可塑剤とは、プラスチックなどに柔軟性、弾⼒性を与えたり、加⼯しやすくするために添加する物質です。粘土を軟らかくするために加える⽔と同じような働きをします。

[参考]RoHS指令で既に規制されているPBB、PBDEの中で現在も生産されているDecaBDE(10臭素化BDE)の国内需要は2014年度では800トンとフタル酸エステル類と比較して極めて少量となっています。

可塑剤国内総生産(2017年度)
可塑剤工業会資料より引用
http://www.kasozai.gr.jp/data/index.html

可塑剤工業会資料より引用http://www.kasozai.gr.jp/data/index.html

2.フタル酸エステル類の用途

その主な⽤途は、軟質塩ビとして壁紙・床材・天井材などの建材、電線の被覆材、農業用フィルム、ホース・ガスケット、⾃動車の内装材・家具などに使われるレザー、履き物、⾐類、包装⽤品、などです。またフタル酸エステルは塩ビ以外にも塗料、顔料、接着剤など、また油圧油やコンデンサーの誘電体としても利用されています。フタル酸エステル類の中でも特に国内での⽣産量が多いDEHPの⽤途はグラフのとおりです。

3.フタル酸エステル類の問題点

実験動物で発がん性や⽣殖毒性、内分泌撹乱物質としての作用などが報告されており、ヒトに悪影響を及ぼす可能性が指摘されておりますことから、各国で様々な規制が⾏われています。

4.フタル酸エステル類の主な法規制

日本、米国、EU、玩具のフタル酸エステル類の規制について

名称 略称 日本 平成22年厚生労働省告示第336号 (2010) US CPSC Improvement Act (2011) EU Directive 2005/84/EC (2005)
フタル酸ビス(2-エチルヘキシル) DEHP
  • おもちゃに使用禁止
  • おもちゃは6歳未満が対象とされたもの
  • 規格値0.1%
  • おもちゃ・育児用品に使用禁止。但し、子供に直接触れることのないそれらの構成部品を除外。
  • おもちゃは12歳以下、育児用品は3歳以下の子供を意図した製品
  • 規格値0.1%
  • おもちゃ・育児用品に使用禁止
  • おもちゃは14歳未満を対象とするもの
  • 規格値0.1%
フタル酸ジ-n-ブチル DBP
フタル酸-n-ブチルベンジル BBP
フタル酸ジ-i-ノニル DINP
  • 口にすることを本質とするおもちゃに使用禁止
  • おもちゃは6歳未満が対象とされたもの
  • 規格値0.1%
  • 子供の口に含まれる可能性がある(1辺でも5cm未満のもの)おしゃぶり・育児用品に使用禁止。但し、子供の口に含まれても、子供に直接触れることのないそれらの構成部品を除外。(たとえば、おもちゃは口に含まれても、口に直接触れないおもちゃ内部の部品などは除外される。)
  • おもちゃは12歳以下、育児用品は3歳以下の子供を意図した製品
  • 規格値0.1%
  • 子供により口に入れる可能性がある(1辺でも5cm未満のあるもの)おしゃぶり・育児用品に使用禁止
  • 規格値0.1%
フタル酸ジ-i-デシル DIDP
フタル酸ジ-n-オクチル DNOP

RoHS指令の規制対象

名称 略称 規制内容 規制開始日
フタル酸ビス(2-エチルヘキシル) DEHP 電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限
含有量0.1wt%(1000ppm)
2019/7/22
フタル酸ジ-n-ブチル DBP
フタル酸-n-ブチルベンジル BBP
フタル酸ジ-i-ブチル DIBP
カテゴリー 適用開始日
1 大型家庭用電気製品 2019/07/22
2 小型家庭用電気機器
3 ITおよびテレコミュニケーション機器
4 コンシューマ機器
5 照明機器
6 電機工具(据付型大型産業用工具を除く)
7 玩具、レジャーおよびスポーツ機器
8 医療機器 2021/07/22
9 産業用を含む、監視および制御機器
10 自動販売機 2019/07/22
11 上記カテゴリーに該当しない電気電子機器

5.フタル酸エステル類の分析方法

試験法として有機溶剤で試料からフタル酸エステル類の抽出を行い、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GCMS)で測定するのが一般的です。

6.環境アシストによる分析

環境アシストの分析は以下のようになります。

製品・材料中のフタル酸エステル類 精密分析

                          
分析項⽬ 分析
機器
定量
下限値
必要
サンプル量
結果速報
(稼動⽇換算)
フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP) 30ppmGC/MS 3g サンプル到着より10日後
フタル酸-n-ブチルベンジル(BBP) 30ppm
フタル酸ジ-n-ブチル(DBP) 30ppm
フタル酸ジ-i-ブチル(DIBP) 30ppm
フタル酸ジ-n-オクチル(DNOP) 30ppm
フタル酸ジ-i-ノニル(DINP) 50ppm
フタル酸ジ-i-デシル(DIDP) 50ppm
フタル酸ビス(2-メトキシエチル)(DMEP) 50ppm
フタル酸ジペンチル(DPP) 50ppm
フタル酸ジ-n-ヘキシル(DNHP) 50ppm
フタル酸ジメチル(DMP) 50ppm
フタル酸ジエチル(DEP) 50ppm
フタル酸ビス(2-ブトキシエチル)(DBEP) 50ppm
フタル酸ジシクロヘキシル(DCHP) 50ppm
フタル酸ジノニル(DNP) 50ppm
フタル酸ビス(2-エトキシエチル)(DEEP) 50ppm

※夾雑物を多く含むサンプルにつきましては、定量下限値の変更をお願いする場合があります。
※フタル酸エステル類の分析項目につきましては、上記以外の分析項⽬も対応致します。

弊社は規制が行われることを想定して、フタル酸エステル類分析に関する試験所認定制度 ISO/IEC17025を2010年に取得しており、現在まで多数の分析事例を有しております。また、2017年10月よりIEC62321-8も対応しております。