コラム

化学物質規制は、特定物質を個別に規制する方式から、事業者がリスクを評価して管理する「自律的な管理」へと移行しています。その流れの中で、2026年(令和8年)10月1日から、個人ばく露測定が作業環境測定の一つとして法令上に位置づけられ、濃度基準値に関する確認測定は所定の講習を修了した作業環境測定士が行う仕組みになります。

本記事では、対象となる物質・作業と、事業者が準備すべきことを整理します。

1. 個人ばく露測定とは

作業環境の測定には、大きく分けて次の2つの考え方があります。

区分内容
場の測定(A測定・B測定) 作業場内の定められた地点で空気中濃度を測定し、作業環境の状態を評価する方法
個人ばく露測定 労働者の呼吸域(襟元など)にサンプラーを装着し、その人が実際に吸い込む濃度を測定する方法

個人ばく露測定は、作業者の動きや発散源との距離を反映した値が得られるため、一人ひとりの健康リスク評価に適しています。

2. 何が変わるのか

これまで濃度基準値の確認測定の実施者については、技術上の指針(行政指導)で専門家による実施が望ましいとされてきました。今回の改正により、厚生労働大臣が定める「個人ばく露測定講習」を修了した作業環境測定士が確認測定を担う仕組みが法令上整備されます。

作業環境測定士の資格を持っているだけでは足りず、講習の修了が必要な点に注意してください。

3. 対象となる物質

確認測定の対象は、リスクアセスメント対象物のうち、国が「濃度基準値」を定めた物質です。

有機溶剤中毒予防規則(有機則)や特定化学物質障害予防規則(特化則)などの特別規則の対象物質には、濃度基準値は設定されていません。

たとえばトルエン・キシレン(有機則)、鉛(鉛則)、特定化学物質などは、従来どおり各規則に基づく作業環境測定と管理濃度による評価が行われます。溶接ヒュームも特化則の枠組みで測定が行われます。

濃度基準値設定物質は告示で指定され、順次追加されています。自社で扱う物質が該当するかどうかは、最新の告示で確認してください。

4. 確認測定が必要となる場面

厚生労働省の技術上の指針に基づく、おおまかな流れは次のとおりです。

  1. リスクアセスメント
    屋内作業場において、労働者のばく露が濃度基準値を超えるおそれがあるかを評価します。実測のほか、CREATE-SIMPLE等の数理モデルによる推定も活用できます。
  2. 確認測定の実施
    推定ばく露濃度が8時間濃度基準値の2分の1を超える場合などに、確認測定で実際のばく露を把握します。
  3. ばく露低減措置
    濃度基準値を超える場合は、発散源対策、換気、作業方法の見直し、呼吸用保護具の使用などによりばく露を低減します。

確認測定では、同様のばく露を受ける作業(均等ばく露作業)ごとに、ばく露が最も高いと考えられる労働者を選んで測定します。

5. 評価の基準

基準値の種類評価方法
8時間濃度基準値1日8時間の時間加重平均値で評価
短時間濃度基準値15分間の時間加重平均値で評価

物質や作業内容に応じて、どちらの基準値で評価するかを判断します。

6. 記録の保存

リスクアセスメント結果に基づくばく露低減措置等の記録は、原則3年間保存します。がん原性物質については30年間の保存が求められます。詳細は労働安全衛生規則の関係条文を確認してください。

7. 事業者の対応チェックリスト

  • 取り扱う化学物質を棚卸しし、「濃度基準値設定物質」か「特別規則の対象物質」かを整理する
  • 濃度基準値設定物質について、屋内作業のリスクアセスメント(数理モデル含む)を実施する
  • 確認測定が必要な作業を特定する
  • 個人ばく露測定講習を修了した作業環境測定士を確保する(社内養成または作業環境測定機関への委託)
  • 測定結果に基づくばく露低減措置と記録保存の体制を整える

まとめ

2026年10月の改正で、確認測定を講習修了者が担うことが法令上明確になり、測定の精度と信頼性の確保が求められます。まずは自社の物質が「濃度基準値の対象」か「特別規則の対象」かを正しく切り分け、リスクアセスメント → 確認測定 → ばく露低減という流れを一貫して運用することが重要です。