フタル酸エステル類の移行に関する検討

フタル酸エステル類の移行に関する検討

【始めに】

2019年7月22日よりEUにおけるRoHS指令の規制対象物質にフタル酸エステル類4物質が追加されることとなった。
フタル酸エステル類は主にPVCの可塑化に使用されることからPVC材に含まれていると考えられているが実際には塗料やインク、接着剤などにも使用されている。
フタル酸エステル類は接触する他の樹脂に移行すると言われているが実際にはどの様な条件で、どの程度移行するのか具体的な調査の報告は2018年5月の段階では殆ど見当たらない。
そこで今回フタル酸エステル類の移行に関する検討を行なったので報告する。

実験風景

【検討方法】

具体的な検討方法は以下の通りである。
フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(CAS№117-81-7)を約20%含有する軟質塩化ビニルシートを硬質塩化ビニル板(厚さ1mm)に貼付、一定時間室温で放置しフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)の移行の状況を確認した。
同時に軟質塩化ビニルシートに1kgの加重をかけ、同様に一定時間室温で放置しフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)移行の状況を確認した。
模式図を図-1に示す。
なお、フタル酸エステル類の測定方法はIEC62321-8に準拠して行った。

図-1 フタル酸エステル類移行実験 模式図

【結果及び考察】

結果を表-1に示す。

表-1 フタル酸エステル類の硬質塩化ビニル板への移行性

単位(mg/kg)

経過時間 加重なしPVC 1kg加重PVC
0時間 <30 <30
1時間 <30 <30
4時間 <30 <30
1日 <30 <30
7日 <30 <30
14日 <30 <30
30日 <30 <30

今回の実験は、フタル酸エステル類で可塑化された塩化ビニル製品(例えば導電性マット)上に樹脂製品を放置した場合を想定して検討を行った。
実験の結果、30日の期間であればフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)の移行は問題になるレベルではない事が確認された。

次にフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)はオクタノール/水分配係数が7.54と親油性物質であり、以前ビニール手袋から油性食品へのフタル酸エステル類の移行が話題になったことから、軟質塩化ビニルシートと硬質塩化ビニル板の界面に少量の油脂を塗布し同様の実験を行った。
油脂はマシン油と、皮脂を想定してサラダ油を塗布し、加重は行わなかった。

結果を表-2に示す。

表-2 フタル酸エステルの硬質塩化ビニル板への移行性(油脂塗布あり)

単位(mg/kg)

経過時間 マシン油塗布PVC サラダ油塗布PVC
0時間 <30 <30
1日 <30 44
7日 <30 <30

得られた結果より、マシン油を塗布したサンプルは、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)の移行が見られなかった。
しかしサラダ油を塗布したサンプルについては僅かに移行が確認されたが、その濃度は僅かであり、さらに1日目の移行量と7日目の移行量が逆転していた。
これは油脂の塗布量やサンプル表面の状態などにより、結果に差異が生じる可能性があると推定された。
だが、現状では移行に関する詳細なメカニズムは不明である。
塗布した油脂の種類によって移行性が異なった理由として、マシン油は通常飽和炭化水素であるのに対し、サラダ油は脂肪酸など構造的にフタル酸エステル類に近い構造を含んでいることから、移行が進行したのではないかと推定された。

今回実験に硬質塩化ビニル板を選定した理由は可塑化された樹脂(軟質塩化ビニルシート)と同一の樹脂である事から、可塑剤が移行しやすいのではないかと推測したからである。
今後は他の汎用樹脂における移行の実験を継続的に行い、順次弊社ホームページで情報を公開する予定である。

参考文献

1) 電機・電子 4 団体作成 EU RoHS 指令制限対象フタル酸エステルに関する注意点